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病院は医療機器を実際にどう購入しているのか:臨床の「いいね」から発注まで

臨床医の支持は、院内採用の出発点にすぎません。診療科の要望、試用、材料・機種の選定委員会、臨床工学、情報システム、用度・調達、予算まで、日本の病院で医療機器が購入されるまでの全体像を解説します。

デモを見た部長先生が「これはいい」と言い、看護師長も早く試したいと言ってくれた。医療機器の営業担当者にとって最も手応えを感じる瞬間ですが、案件が静かになり始めるのも、たいていこの瞬間です。その後何か月も、臨床側は変わらず前向きなのに、購入がいまどこまで進んでいるのかを説明できる人はいません。

臨床の支持は、院内採用の出発点にすぎません。購入を最後まで進める部門の多くは、営業担当者と顔を合わせることがありません。

この記事では、医療機器が「臨床が関心を持った」段階から「病院が正式に発注する」までの道筋を、一つずつ整理します。各部門が何を必要としているのか、どんな根拠があれば通るのか、どこで止まりやすいのか、そして営業担当者が実際にどこまで関われるのかを見ていきます。

なお、手続きは病院ごとに異なります。大学病院、地域の基幹病院、中小病院では手続きの厳密さが違い、自治体病院などの公的病院と民間病院では従うルールも異なります。以下は一般的な構造であり、実際にはその病院の規程が基準になります。

院内に入る前に:病院の外で決まる二つの条件

病院のどの部門も手を貸せないのに、すべての部門の判断に影響する条件が二つあります。

**一つ目は薬機法上の承認・認証です。**医療機器として販売するには、製品のクラスに応じて承認、認証、または届出が必要です。保険適用の手続きも、この承認または認証を受けた後に行うものとされています。ここが整っていなければ、院内の検討は始まりません。

**二つ目は保険上の評価区分です。**日本では、医療機器の保険上の扱いに「A1(包括)」「A2(特定包括)」「B(個別評価)」「C1(新機能)」「C2(新機能・新技術)」などの区分があります。A1やA2の製品は技術料に含まれて評価されるため、病院は製品価格を別に請求できません。一方、B(特定保険医療材料)であれば技術料とは別に請求できます。どの区分かによって、病院側の採算の見え方はまったく変わります。営業担当者は、院内に入る前に自社製品の区分を説明できるようにしておくべきです。

院内採用までの全体像

下の表は、多くの医療機器案件が通る意思決定の節点です。すべての案件がすべてを通るわけではなく、順序も病院によって異なりますが、長期化する案件のほとんどは、この大半を通過します。

節点必要としているもの通るための根拠止まりやすいポイント営業の関与度
臨床の推進者(医師、看護師長)患者や業務にとっての明確なメリットデモ、文献、他院での使用経験前向きだが、院内手続きを進める時間がない高
診療科長・部門長限られた要望枠や予算を使う価値臨床上の必要性、現行品との違い今年度の購入要望はすでに締め切られている中〜高
院内での試用実際に使ってみた評価試用記録、現場の意見試用は終わったが、評価をまとめる人がいない中
材料・機種の選定委員会新たに採用する理由と、現行品と比べた妥当性臨床的な有用性、コスト比較、同等品の有無次回の委員会まで審議が持ち越される低〜中
臨床工学部門安全性、保守、ライフサイクルコスト仕様書、保守計画、部品供給の約束保守条件や部品供給の条件がまとまらない中
情報システム部門(接続がある場合)院内システムとの連携とセキュリティ連携仕様、セキュリティ資料情報システム部門の作業計画に入らない中
用度・調達部門規程に沿った調達見積、仕様、必要書類公的病院では入札が必要で、仕様を特定メーカーに寄せられない低
事務部門・経営層(予算)正しい年度・科目での予算措置予算要求資料、費用対効果来年度予算の要求時期を逃している低
契約担当受け入れられる契約条件保証、責任、解約の条件病院の標準契約とメーカー条件が合わない低〜中

臨床の推進者と診療科長:すべての出発点

営業担当者が最もよく知り、最も影響を与えられるのがこの段階です。ただし、製品を気に入ってくれている医師が、院内手続きを最後まで進める時間と立場を持っているとは限りません。要望を正式な申請に変えるのは、多くの場合、診療科長や部門長です。彼らが考えるのは、この製品に診療科の限られた要望枠と予算を使う価値があるかどうかです。

試用と選定委員会:「いいね」から「採用決定」へ

新しい診療材料や機器は、試用を経て、院内の委員会で採用の可否が審議されるのが一般的です。たとえば埼玉県総合リハビリテーションセンターでは、新規の診療材料等を購入する際に、診療材料等検討委員会の承認を得なければならないと定めています。機器については、川崎市立井田病院のように、一定額以上の医療器械の仕様決定や機種選定を委員会で審議する病院もあります。

委員会が問うのは「良い製品かどうか」よりも、「すでに使っている製品と比べて、新たに採用する価値があるか」です。委員会が何を見ていて、営業担当者が何を準備できるかは、診療材料委員会:何が審議され、どう準備するかで詳しく扱っています。

臨床工学と情報システム:二つの技術的な関門

臨床工学部門が気にするのは、臨床的な効果よりも、その機器が院内で長年使われる間のことです。安全性、点検・保守、故障時の対応、部品の入手性などです。営業担当者はこの関門を軽く見がちで、保守条件で案件が止まってから気づくことが少なくありません。

機器がネットワークに接続する、電子カルテと連携する、あるいはプログラム医療機器である場合には、情報システム部門も意思決定ユニットになります。連携仕様やセキュリティに関する資料を、聞かれる前に用意しておくだけで、避けられる遅れの一つがなくなります。

用度・調達、予算、契約:営業がほとんど会えない部門

自治体病院などの公的病院では、購入は公的な調達ルールに従って行われます。川崎市立井田病院の要綱でも、一定の医療器械については地方公共団体の調達手続の特例を定める政令の適用を前提に仕様を決定することが示されています。採用が決まった後でも、購入は入札になり、他社も応札できます。この段階では、臨床の好みだけで結果は決まりません。

物品管理を外部に委託する病院もあり、たとえば半田市立半田病院は医療材料等の物品管理等業務を委託する業者を選考する委員会を設けています。院内の物流や在庫の仕組みも、新しい製品の導入のしやすさに影響します。

予算は年度単位で動くのが一般的で、来年度の予算要求の時期を逃すと、臨床の支持がどれほど強くても1年待つことになりかねません。購買の段階で案件が何か月も止まる理由と、その読み解き方は、病院の購買プロセス:臨床の承認はゴールではないで詳しく解説しています。

公的病院と民間病院:同じ節点、違うルール

公的病院(自治体病院、国立大学病院など)民間病院(医療法人など)
調達の根拠公的な調達ルール院内の購買規程
仕様競争性の確保が求められ、特定メーカーに限定しにくい比較的柔軟だが、委員会審議は多い
価格入札で決まることが多い交渉の余地があることが多い
予算年度予算。議会や本部の承認が絡むこともある年度予算。理事会などで決定
営業が特に注意すべき点仕様が決まる段階での情報提供と、入札スケジュール実際に決裁権を持つ人の見極め

民間病院のほうが簡単というわけではありません。民間病院でも、委員会、臨床工学、情報システムの審査は同じようにあり、違うのは最後の段階のルールと柔軟性です。

止まっている案件を「節点」で読み直す

以下は仮想のシナリオです。 ある営業担当者が、300床規模の自治体病院に、ネットワーク接続型のスマート輸液ポンプを提案しています。看護部は強く支持しており、病棟での試用も終わりました。SFA上のフェーズは「試用完了」のまま、4か月が過ぎています。

節点状態満たされていない条件
看護部(臨床の推進者)クリア—
院内試用完了試用評価が委員会向けにまとめられていない
機種選定委員会未審議試用評価と、現行機とのコスト比較が必要
臨床工学部門未着手保守計画と部品供給の約束が届いていない
情報システム部門未着手電子カルテとの連携仕様が提供されていない
予算待ち今年度の予算に計上されておらず、来年度の要求に乗せる必要がある
用度・調達未着手入札に向けた仕様がまだ固まっていない

フェーズで見れば、この案件は止まっています。節点で見ると、止まっている場所は五つあり、それぞれ次の一手が違います。看護部が試用評価をまとめるのを手伝う、臨床工学部門に保守計画を届ける、情報システム部門に連携仕様を渡す、来年度の予算要求のスケジュールを確認する、仕様の検討に必要な情報を整理する。どれも、推進者をもう一度訪問しても解決しないことばかりです。

営業担当者が実際にできること

多くの節点には直接触れられませんが、できることは少なくありません。

  1. **病院の外の条件を先に固める。**承認・認証と保険上の区分は、院内のあらゆる評価の前提になります。
  2. **病院のカレンダーを早めに知る。**委員会はいつ開かれるのか、来年度の予算要求はいつ締め切られるのか。正しいタイミングでの一回の働きかけは、間違ったタイミングでの十回の訪問に勝ります。
  3. **根拠資料を、それを必要とする部門に届ける。**文献は臨床に、保守計画は臨床工学に、連携仕様は情報システムに、コスト比較は委員会に。資料にはそれぞれ届け先があります。
  4. **社内の推進者を通じて、入れない会議室の中を知る。**委員会や予算の会議には出られませんが、推進者は、申請がいまどこにあり、何が足りないのかを教えてくれます。
  5. **フェーズだけでなく、部門ごとに状況を追う。**病院の案件は1年以上かかることも珍しくありません。担当者は替わり、委員会の日程も動きます。記憶だけでは、すぐに全体像を見失います。

病院は、複雑なBtoB営業の一つの例にすぎません。同じ考え方がほかの業界でどう当てはまるかは複雑なBtoB営業:長期化する商談が実際に前へ進む仕組みで、各部門の影響力を整理する方法は営業のステークホルダーマッピングで解説しています。

すべての節点の状況を見える化する

病院の案件には、臨床、臨床工学、情報システム、用度・調達、予算が同時に関わり、それぞれ進み方が違います。ほとんどのSFAにはフェーズの項目しかなく、どの部門がまだ通っていないのかが見えにくくなります。

VINEQRA は、こうした部門横断型の案件のために設計された iOS アプリです。病院の案件を院内の意思決定ユニットに分け、それぞれにステータスを持たせ、各ユニットとのやり取りを記録します。あるユニットで進展がないときは、プロセスが止まっていると考えられる箇所を示し、そのボトルネックに応じた次のアクションを提案します。提案はあくまで出発点です。その病院を一番よく知っているのはあなたです。

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よくある質問

医療機器が病院に採用されるまで、どんな部門を通りますか?

一般的には、臨床の使用部門、診療科長、院内試用、材料や機種の選定委員会、臨床工学部門、情報システム部門(連携がある場合)、用度・調達部門、予算を管轄する事務部門、契約担当などです。順序や範囲は、病院の規模、公的か民間か、製品の種類によって異なります。

院内採用までにどのくらいかかりますか?

大きく異なります。診療材料、医療機器、プログラム医療機器では道筋が違い、病院の委員会日程や予算サイクルも大きく影響します。来年度予算の要求に間に合わなければ、臨床の支持があっても1年待つことがあります。

公的病院と民間病院では購入の仕方が違いますか?

違います。公的病院は公的な調達ルールに従い、採用が決まった後も入札になることが多く、仕様を特定メーカーに限定しにくくなります。民間病院は院内の規程に沿って購入し、柔軟性や価格交渉の余地は比較的大きいものの、多くの場合、委員会などの院内手続きがあります。

臨床の先生が賛成しているのに、なぜ案件が進まないのですか?

臨床の支持は、一つの部門の条件を満たしたにすぎないからです。選定委員会、臨床工学、情報システム、用度・調達、予算のどこかで条件が満たされていなければ案件は止まり、そうした部門は、理由を営業担当者に伝えてくれないことがほとんどです。

保険上の区分は病院の購入判断に影響しますか?

影響します。A1やA2のように技術料に包括される製品は、病院が製品価格を別に請求できません。B(特定保険医療材料)のように別に請求できる製品とは、病院側の採算の見え方が大きく違います。営業担当者は、院内に入る前に自社製品の区分を確認しておくべきです。

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