診療科長は賛成し、看護部の試用も終わり、委員会での採用も決まった。臨床側の全員が「いい」と言っているのに、案件が購買の段階に入ってから何の音沙汰もない。4か月が過ぎ、窓口に聞いても「手続き中です」という答えしか返ってこない。
多くの営業担当者は、この沈黙をどちらかの意味に受け取ります。購買は判を押すだけの形式的な手続きだから待てばいい、あるいは、購買は案件を止めるための障害だ、と。どちらの受け取り方をしても、打てる手はなくなります。
購買は形式的な手続きでも、障害でもありません。独自の未解決の条件を持つ、独立した意思決定ユニットです。そして、その条件はたいてい調べればわかります。
この記事では、日本の公的病院が公開している資料をもとに、購買の段階で案件が止まる5つの典型的な理由を整理します。それぞれの沈黙がどう見えるのか、どう確かめるのか、正しい次の一手は何かを見ていきます。院内採用から発注までの全体像は病院は医療機器を実際にどう購入しているのかで、委員会の段階は診療材料委員会:何が審議され、どう準備するかで解説しています。
なぜ臨床が承認した後も、購買で止まるのか
臨床側が答えているのは「この製品は使えるか」という問いです。購買が答えるのは、別の問いの束です。どのルートで調達するのか。同じ種類の製品で既存の契約はあるのか。予算はどの年度のどの計画に入っているのか。入札が必要なのか。参加する事業者は資格と書類を満たしているのか。
臨床の支持は、これらのどれにも直接答えられません。しかも購買部門は、どの問いで止まっているのかを営業に教えてくれることがほとんどありません。外から見ると、まったく違う5つの状況が、同じ沈黙に見えるのです。
止まっている案件の本当の原因を見つける一般的な方法は、BtoB営業の案件が止まる理由と、本当のボトルネックの見つけ方で解説しています。この記事では、その考え方を病院の購買に直接当てはめます。
購買で止まる5つの理由と、5つの違う沈黙
| 止まる理由 | 沈黙の見え方 | 確かめ方 | 正しい次の一手 |
|---|---|---|---|
| 調達ルートが違う | 「これは本部の判断になるので」 | この品目が病院単独の調達か、グループの共同入札かを聞く | 誰が、いつ、どの形で調達するのかを把握する |
| 既存の契約がある | 臨床は使えると言うのに、発注が出ない | 同種の製品で既存の契約や採用品があるか、いつまでかを聞く | 追加の可否を確認するか、次の契約更新に合わせる |
| 予算の時期が合わない | 「今年度は予算がない」「来年度に検討」 | 今年度の整備計画に入っているか、来年度の計画はいつ固まるかを聞く | 次の年度計画の要求時期に合わせる |
| 入札の手続きがある | しばらく沈黙が続き、やがて入札公告が出る | 意見招請や入札の予定、仕様書がいつ固まるかを聞く | 意見招請の段階で情報を提供し、入札に備える |
| 資格や書類がそろっていない | 「書類待ちです」 | 何が足りないのか、どこに、いつまでに出すのかを聞く | すぐにそろえる。営業が完全にコントロールできる唯一の理由 |
一、調達ルートが違う:その品目は病院単独で買うとは限らない
公的病院グループでは、品目によっては病院単独ではなく、グループ全体でまとめて調達します。国立病院機構では、CTやMRIなどの大型医療機器について、国立病院機構、労働者健康安全機構、地域医療機能推進機構、日本赤十字社による共同入札が行われています。地域グループの単位で、各参加病院の委任を受けて代表者が医療機器等の共同入札を公告する例もあります。
自社の製品が共同入札の対象品目に入っているなら、一つの病院の臨床がどれだけ支持していても、共同入札のスケジュールに合わせるしかありません。このとき聞くべきは「いつ発注されますか」ではなく、「この品目は誰が、いつ、どの形で調達するのですか」です。
二、既存の契約がある:採用されたのに、まだ買えない
委員会での採用は、多くの場合「購入してよい」という意味にすぎません。同じ種類の製品で既存の契約がまだ有効であれば、病院は契約期間の終了を待つか、契約外で購入する理由を説明する必要があります。
この沈黙は最も誤解されやすいものです。臨床側は購買が手続きを進めていると思い、購買側は新しい要望が出ていないと思っています。営業がすべきことは、既存の契約の内容と期限を確認し、誰が正式に要望を出すのかをはっきりさせることです。
三、予算の時期が合わない:年度の整備計画に乗っているか
公的病院の医療機器は、年度ごとの整備計画に沿って調達されるのが一般的です。たとえば国立病院機構岡山医療センターの「令和8年度医療機器等整備一式」では、5月に仕様書案への意見招請が公示され、7月に入札公告、9月に開札、納入期限は翌年3月31日という流れになっています。
つまり、ある年度の整備計画に入るかどうかは、その年度の早い時期にはほぼ決まっています。「今年度は予算がない」という返事は、たいてい断りではなく時期の問題です。正しい次の一手は、来年度の要望がいつ、どの部署から出されるのかを確かめ、その時期に間に合わせることです。
なお、購入以外の契約形態がとられることもあります。国立病院機構東近江総合医療センターでは、内視鏡機器を症例単価払いの契約で借り入れる調達について意見招請が行われています。ただし、契約形態の選択は病院側の判断であり、営業が予算の問題を回避する手段として期待できるものではありません。
四、入札の手続きがある:仕様書が固まる前と後は別の世界
公的病院では、要件が固まると一般競争入札にかけられるのが一般的です。ここで営業が正当に関われるのは、仕様書が固まる前の段階です。国立病院機構の各病院は、仕様書案の作成が完了したことを公示し、仕様書案に対する意見を約1か月にわたって募集しています。これが意見招請です。
この段階で、製品の機能や規格、市場の状況について正確な情報を提供することは、病院が要件を正しく記述する助けになります。一方、仕様書が固まり入札が始まれば、入札説明書と仕様書に沿って応札するしかありません。総合評価方式の入札では、性能、機能、技術などに関する書類の提出も求められます。
ここで一つ、はっきりさせておくべきことがあります。病院が市場を理解するための情報提供と、自社製品しか満たせないように仕様を誘導することは、まったく別のものです。後者は公正な競争を損ない、営業にとっても病院にとってもリスクになります。
五、資格や書類がそろっていない:営業が完全にコントロールできる唯一の理由
ここまでの四つは、営業が影響を与えられても決めることはできません。この五つ目だけは、完全に自分たちの側の問題です。
国立病院機構の競争入札に参加するには、全省庁統一資格の「物品の製造・販売等」の競争参加資格を得ていることが必要です。個別の入札公告では、さらに条件が加わります。たとえば国立病院機構岩国医療センターの調剤機器の入札では、全省庁統一資格「物品の販売」の等級と地域の競争参加資格、薬機法に基づく医療機器の販売業許可、迅速なアフターサービスとメンテナンスの体制を証明することが求められています。
実務上は、こうした資格や許可を持つ販売業者が入札に参加し、メーカーの営業担当者はその販売業者と連携して書類を整える形も少なくありません。どの事業者が、どの地域の資格で応札するのかを早めに確認しておかないと、入札そのものに参加できない事態になります。
「書類待ちです」という返事は、たいてい自分たちの側に足りないものがあるという意味です。何が足りないのか、どこに、いつまでに出すのかを確認し、すぐにそろえましょう。
4か月止まった案件を、理由ごとに読み直す
以下は仮想のシナリオです。 ある営業担当者が、公的病院グループに属する300床規模の病院にスマート輸液ポンプを提案しています。看護部での試用は好評で、院内の委員会での採用も決まりました。それから4か月、返ってくるのは「購買で手続き中です」という返事だけです。
一つずつ確かめていくと、案件は同時に三つの場所で止まっていました。
| 止まる理由 | 実際の状況 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 予算の時期 | 輸液ポンプは今年度の医療機器整備計画に入っておらず、予算が確保されていない | 来年度の要望がいつ、どの部署から出されるのかを確認し、看護部に早めの要望を依頼する |
| 入札の手続き | 来年度は一般競争入札になる見込みで、仕様書案はこれから作成される | 意見招請の公示を確認し、機能や規格に関する正確な情報を提供する |
| 資格 | 応札を予定していた販売業者が、その地域の競争参加資格を持っていなかった | 資格を持つ販売業者と連携するか、資格の取得を進める |
どれも「購買が反対している」わけではなく、それぞれ調べればわかる条件です。営業担当者が看護部を訪問し続け、連絡を待つだけだったなら、さらに1年を空費していたかもしれません。
購買の段階で営業が実際にできること
- **購買を一つの意思決定ユニットとして扱う。**購買には独自の問いがあり、臨床の承認の後に自動的に通る形式的な手続きではありません。
- **時期より先に、調達ルートを聞く。**病院単独か、グループの共同入札かによって、合わせるべきスケジュールが決まります。
- **年度の整備計画のサイクルを知る。**今年度に間に合うのか、来年度になるのかで、案件の見通しはまったく変わります。
- **影響力は仕様書が固まる前に使う。**意見招請などの段階で正確な情報を提供し、仕様を自社に有利に誘導しようとはしないことです。
- **自分たちの資格と書類が、止まる理由にならないようにする。**これは完全に自分たちでコントロールできる唯一の条件です。
購買側からまったく反応がなく、どこで止まっているのかさえわからない場合は、顧客が急に沈黙したとき:動かない案件をどう読み解くかも参考にしてください。
購買のすべての条件を見える化する
病院の案件が購買の段階に入ると、臨床側のステータスは「クリア」でも、購買側は予算、入札、資格の三つで同時に止まっていることがあります。一つのフェーズ項目だけでは、この違いは見えません。
VINEQRA は、病院の案件を院内の意思決定ユニットに分け、それぞれにステータスとやり取りの記録を持たせる iOS アプリです。臨床ユニットがクリアし、購買ユニットがまだ未解決のとき、どのユニットが止まっていて、どの条件が残っているのかがはっきりわかります。VINEQRA はボトルネックに応じた次のアクションも提案しますが、判断するのはあなたです。
よくある質問
病院の購買プロセスにはどんな段階がありますか?
一般的には、調達ルートの確認、予算と年度計画の確認、仕様の検討(公的病院では意見招請を含むことがあります)、入札または見積、落札・契約、納入と検収という流れです。公的病院か民間病院か、グループでの共同調達かどうかによって、細部は異なります。
臨床が承認したのに、なぜ購買に時間がかかるのですか?
購買が答えるのは別の問いだからです。調達ルート、既存の契約、予算の年度、入札の手続き、事業者の資格と書類のどれか一つでも未解決なら、案件は購買の段階で止まります。外から見ると、どの理由も同じ沈黙に見えます。
意見招請とは何ですか?
公的な調達で、発注者が仕様書案を公表し、事業者から意見を募る手続きです。国立病院機構の各病院では、仕様書案の作成完了を公示し、約1か月の期間を設けて意見を募集しています。営業が正当に情報を提供できる重要な段階です。
国立病院機構の入札に参加するには何が必要ですか?
全省庁統一資格の競争参加資格が必要です。個別の入札では、資格の等級や地域、薬機法に基づく医療機器の販売業許可、アフターサービスやメンテナンスの体制の証明などが追加で求められることがあります。
営業は仕様書の内容に関わることができますか?
意見招請などの段階で、製品の機能や規格、市場の状況について正確な情報を提供することはできます。ただし、自社製品しか満たせないように仕様を誘導することは公正な競争を損なうため、行うべきではありません。